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【国語逍遥(66)】清湖口敏 「慣れ」とは恐ろしいもの 漢字の書き換え

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【国語逍遥(66)】
清湖口敏 「慣れ」とは恐ろしいもの 漢字の書き換え

どちらの漢字を使う方がいいか どちらの漢字を使う方がいいか

 漢字単位での書き換えもあり、熔→溶、坐→座、掠→略などが示された。これらの漢字を含む一切の熟語に適用されるもので、例えば熔岩や熔鉱炉、熔接、熔解はそれぞれ溶岩、溶鉱炉、溶接、溶解となった。熱でとかす(とける)意の熔が、水でとかす(とける)意の溶に取って代わられたのだった。

 2001年の米中枢同時テロ事件のとき、「ビルの柱が溶解した」と書いた小紙の記事に「炎や熱でとけたのなら熔解が正しい」と指摘してきた読者がいた。「お上の定めた用字なので…」と苦しい言い訳をするしかなかったのを覚えている。

 国語審議会の定めた書き換えだけならまだしも、実際にはそれ以外に新聞界が独自に採用した書き換えもあった。斑点→班点、萎縮→委縮、貫禄→貫録などである。新聞社の人間が言うのも変だが、あまりにも強引な書き換えだった。昭和56年に当用漢字表が常用漢字表となり漢字使用の制限色が薄まると、それらを見直す機運が高まり、一部は後に改められた。戦後の新聞の「負の遺産」がわずかながらも清算されたことになる。

 世論調査に話を戻そう。注目したいのは「どちらを使うか」ではなく「どちらの漢字を使う方がいいか」と尋ねている点である。新聞など戦後の活字媒体はどれもbだけを使ってきたため、国民は日常的に目にするbにすっかり慣らされた。戦前にはごく普通に用いられていたaはそこで、見慣れない字として「使わない方がいい」と判断されたのではなかろうか。

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