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【文芸時評】12月号 早稲田大学教授・石原千秋 意味のあるつまらなさ

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【文芸時評】
12月号 早稲田大学教授・石原千秋 意味のあるつまらなさ

 僕のゼミ生だった卒業生の集まりがあった。なぜか出版関係に就職した学生の多い学年だったから、みんなもう30歳になるのに文学の話が多くなるのは当然だが、東山彰良『流』が抜群に面白いとひとしきり語ったら、一人が「純文学ってつまらないですよね」と言ってのけた。「それは言わないことになっているんだけど」と言うべき発言だが、正直な感想である。「つまらないから純文学なんだよ」と答えておいた。昭和と呼ばれた時代ぐらいまでの純文学はもっと物語性があって面白かった。いつから純文学はこんなにつまらなくなったのだろうと思う。いや、つまらなくてもいいのだ。問題は、意味のあるつまらなさかどうかという一点にある。

 滝口悠生「死んでいない者」(文学界)は、お通夜の話。と言うか、お通夜に集まった者たちについての話だ。語られる人物が多すぎて、最後までつきあいきれないようなところがあるが、種明かしは冒頭近くに仕掛けられている。「人は誰でも死ぬのだから自分もいつかは死ぬし、次の葬式はあの人か、それともこちらのこの人かと、まさか口にはしないけれども、そう考えることをとめられない」「もし自分が今死んだら、夫と息子がやはりああして自分のことを見つめる、その時にはもう少し悲しげになるだろう」と。紗重と夫のダニエルが出会った「奇跡」は「確率じゃはかれない」という議論も、種明かしだ。

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