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【書評】詩人、中原かおりが読む『あこがれ』川上未映子著 逃げずに求めてもがいて 

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【書評】
詩人、中原かおりが読む『あこがれ』川上未映子著 逃げずに求めてもがいて 

『あこがれ』川上未映子著(新潮社・1500円+税)

 小学生の心に、ある日生まれたせつなさ。それを読む大人の心にもせつなさが広がる。いまだ大人になりきれない心がぎゅっと疼(うず)く。

 麦彦とヘガティーと呼ばれる女の子は小学校の同級生だ。それぞれの「あこがれ」を巡(めぐ)るものがたり2章が、それぞれの目線、それぞれの一人称の語りで展開していく。

 4歳で父を亡くした麦彦は自宅で占い業をしている母と寝たきりのおばあちゃんと暮らしている。夏の初めにスーパーのサンドイッチ売り場でミス・アイスサンドイッチを見掛け、経験のない息苦しさに襲われ、それが何かをわからぬまま夏休み中毎日サンドイッチを買いに行く。

 ヘガティーは3歳で母を亡くし映画評論家の父との2人での生活。パソコン授業での検索で自分に見知らぬ家族がいることを知る。身内は父だけと思っていた少女の心に膨らんでいくあこがれ。

 恋と思慕、2人のエピソードが読点連打の長文で綴(つづ)られていく。短く区切られたリズミカルな文章は、子供独特の速い呼吸や考えながら話す言葉そのもので、リアルに読み手に飛び込んでくる。同じくストーリーに勢いを与えているのが、意表を突くニックネームの数々だ。その謎解きも実に楽しい。

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