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【書評】文芸評論家、水口義朗が読む『マスコミ漂流記』野坂昭如著

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【書評】
文芸評論家、水口義朗が読む『マスコミ漂流記』野坂昭如著

『マスコミ漂流記』野坂昭如著(幻戯書房・2800円+税)

 ■敗北と挫折と屈辱の日々

 闇市焼跡派を自称する鬼才、野坂昭如は、2003年5月26日に心原性脳梗塞で病床についた。後遺症として右半身マヒと発声不明瞭、ひとまわり年下のタカラジェンヌの暘子(ようこ)夫人が聞き書きで、12年間作品を発表しつづけている。現役作家だが、一般には直木賞作品の『火垂(ほた)るの墓』の作者として、敗戦記念日前後にアニメ、映画が蘇(よみがえ)る。

 処女作『エロ事師たち』が「小説中央公論」(昭和38年11、12月号)に発表されたとき以来の奇妙な恐持(こわも)て小説家だ。「これは世にもすさまじい小説で…醜悪無慙(むざん)な無頼の小説であり、それでいて塵芥(ごみ)捨場の真昼の空のように明るく、お偉方が鼻をつまんで避けてとおるような小説なのだ」と、三島由紀夫が称賛。

 「文学作品として後世に残る傑作である。…作者の人間を見る冷たい視線が、そのまま人間を慈しみぶかくすい上げていることも稀有(けう)であり、作者の眼がういういしさと大人の円熟を兼ね備えているのも稀有なことである。あえて最上級の賛辞を呈する」と吉行淳之介も絶賛した。

 本書は昭和31年1月初頭、著者が三木鶏郎音楽事務所で働き始めた27歳から、昭和42年下半期の直木賞を受賞する直前まで12年間、マスコミ戦国時代にCM作詞、コント、台本構成、CMタレント、マネジャーなど、闇雲(やみくも)にかけずりまわった敗北と挫折と屈辱の日々を著した自伝的テレビ草創期資料。初の書籍化。

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