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【図書館は今】(中)「無料貸本屋」論争 販売部数を上回った貸出数

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【図書館は今】
(中)「無料貸本屋」論争 販売部数を上回った貸出数

 「あまりにかゆいところまで手が届くと根本である出版を壊しかねない。どれくらいのサービスがいいのか、ぜひ考えて運営していっていただきたい」

 10月16日に東京都内で開かれた全国図書館大会のシンポジウム。新潮社の佐藤隆信社長は緊張した面持ちで、会場に詰めかけた図書館員らにそう懇願した。

 佐藤社長が批判するのは、公共図書館が同じ新刊を多数そろえて貸し出す「複本」の問題だ。書店の棚に並んだばかりの新刊が図書館では無料で借りられる。佐藤社長は、大型書店もある都市部の図書館が売れ筋の本を多数所有する実例を示し「販売冊数が毀損(きそん)されている」と配慮を求めた。

1年間「待って」

 このため新潮社が中心となり、全国の市町村立図書館に対し、著者と版元が合意した新刊について、貸し出しを1年間猶予するよう要望する文書を出す準備を進めている。一部の大手出版社や複数の作家、大手書店との連名になる見込みで、11月中の送付を目指す。

 背景には深刻さを増す出版不況がある。労働人口の減少などで書籍市場がピークの7割弱に縮小する一方、公共図書館の貸し出し数は「無料」の強みを生かして増加し平成22年には約7億1千万点に。この年、約7億230万冊にまで減った書籍の推定販売部数を上回った。

 新潮社の石井昂(たかし)常務によると、文芸書は初版の9割が売れて採算が取れる価格を設定する。赤字で終わる新刊も多いが、息長く重版されていく売れ筋の本が損失を埋め、少部数の文芸誌の発行も支える。

 「著名な作家の初版2万部くらいの本が図書館の利便性向上に合わせるように増刷できなくなっている。印税が入らないと著者は再生産ができず創造サイクルが回らない」と石井さん。準備中の文書に強制力はなく判断は各図書館に委ねられるが、「日本の活字文化の危機という意識で協力してほしい」と訴える。

「火花」30冊所有

 批判を受ける図書館側も複雑な事情を抱えている。

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