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【書評】音楽ライター・富樫鉄火が読む『ミシェル・ルグラン自伝』

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【書評】
音楽ライター・富樫鉄火が読む『ミシェル・ルグラン自伝』

「ミシェル・ルグラン自伝」

ジャンルを越境する面白さ

  ミシェル・ルグランの母方の祖父は、19世紀末、オスマン帝国によるアルメニア人大虐殺からフランスに逃れてきた。その後フランス女性と結婚し、4人の子をもつ。その1人が母マルセルで、ポピュラー楽団の編曲家と結婚し、ミシェルが生まれた。だがこの父は早くに家を出てしまう。かくしてミシェル・ルグランは、父親不在の家庭で、女性三代(祖母、母、姉)に囲まれて育った。

 冒頭のこのエピソードだけで、『シェルブールの雨傘』や『おもいでの夏』の旋律が、なぜあれほど美しくて切ないのか、おぼろげながらわかるような気がした。

 本書は今年83歳の映画音楽作曲家、ジャズ・ミュージシャンによる回想録だ(もちろん現役バリバリで、最新作は日本でも公開されたばかりの『チャップリンからの贈りもの』)。伝説の名教育者ナディア・ブーランジェの厳しいレッスン、マイルス・デイヴィスとの交流、ストラヴィンスキーの名アドバイス…次々と新機軸に挑む彼の人生は、先祖の地や肉親を失った寂しさを埋めていくかのようだ。

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