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【書評】作家・医師、久坂部羊が読む『団塊69(ロック) 臨床医のつぶやき』徳永進著

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【書評】
作家・医師、久坂部羊が読む『団塊69(ロック) 臨床医のつぶやき』徳永進著

「団塊69」

現実から眼を逸らさない 

 私が最初に徳永医師の文章を読んだのは、老いや死をテーマにした雑誌の特集だった。「野の花診療所」とあるのを見て、わ、イヤだなと思った。ほのぼのしたきれい事が書いてあるのだろうと思ったからだ。しかし、ちがった。現場で何度も死を看取った医師ならではの、厳粛な事実が真実味を持って書かれていた。それ以後、ずっと徳永医師の文章を愛読している。

 本書も同様である。たとえば、80歳の末期がん患者に、「なるべく長く生きて」と言うと、間髪入れず「短く」と返された話。脳梗塞とがんの夫を長年介護した妻の「一に辛抱、二に諦め、三が妥協で四が意地」という言葉。手遅れのがんには「健診を受ける前に、しなければならないことがあった」と敬意を払い、難病で嚥下(えんげ)がむずかしい母に、好物のプリンを食べさせて窒息させてしまった息子夫婦を温かく肯定する。

 また、病院より自宅で最期を迎えるほうがいいと前のめりになっていたとき、病院死のメリットを聞いて、すぐさま「いいとこつかれた」と軌道修正する柔軟さ。「思い込みが激しく、人の話を聞かない」団塊の世代には、珍しい心の身軽さと思える。

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