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【書評】重里徹也聖徳大教授が読む『血の弔旗』藤田宜永著 戦後の日々をどう考えるか

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【書評】
重里徹也聖徳大教授が読む『血の弔旗』藤田宜永著 戦後の日々をどう考えるか

『血の弔旗』藤田宜永著(講談社・2200円+税)

 戦後70年。日本人は、何をよりどころにして生きてきたのだろうか。家族がつつがなく暮らすことか。豊かさを得ることか。効率性を追求することだろうか。

 いずれも尊いことだ。否定する人は少ないだろう。しかし、それだけでいいのか。心に巣くう空虚は何なのだろう。70年前に置き忘れたものがあるのではないか。

 たとえば、戦争の犠牲者とどう向き合えばいいのか。近代の歩みをどう考えるのか。日本人の幸せとは何なのか。

 これはそんな疑問に答えようとした長編ミステリーだ。580ページに及ぶ大作だが、短いセンテンスを連ねる筆致が読みやすい。絶えず緊迫感を味わえる構成で、ページがどんどん進む。折々の風俗や流行歌に誘われて、読者は知らず知らずのうちに、戦後の日々を振り返るだろう。

 主人公が魅力的だ。1936年生まれ。父と兄を戦争で亡くし、義父と折り合いが悪く、家を出て無頼な生活をしてきた。戦後の混乱期に金貸しで財を成した男の運転手になり、66年に主人宅で闇取引の現金11億円を奪う。

 犯罪を共にしたのは、戦中に疎開先で知り合った同年代の男3人。綿密な計画で、現金強奪もうまくいったが、誤算が一つあった。犯行中に訪れてきたクラブのママを殺さざるを得なくなり、それは暗い影を落とすことになる。

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