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【書評倶楽部】興福寺貫首・多川俊映 『記録された記憶』東洋文庫編

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【書評倶楽部】
興福寺貫首・多川俊映 『記録された記憶』東洋文庫編

多川俊映さん

学び得ないのが私たち

 70年前の今日8月15日、長い戦争の日々が終わった。

 今でもかつての戦争を、元来自衛のためであったとか、イヤ、結局は侵略だったとか論じ合われるし、太平洋戦争か大東亜戦争か、また、終戦・敗戦の言葉遣いも、国民の間で必ずしも統一感があるとは思われない。

 その上、若者の間では、そういう戦争があったという認識すらあまりない。5、6年前だったかの8月15日、東京・銀座での街頭インタビューで、若い女性連れが、今日がどういう日かわからず、アメリカとの戦争が終わった日だと教えられて、--それで、どっちが勝ったの、と、言い放ったのを、評者はたまたま、テレビでみた。

 もっとも、経験者の記憶もどうしても薄らぐし、カエサルではないが、人は見たいものだけ見るから、時とともに、事実は見えづらくなる。というか、記憶は必ず風化するから、何らかの媒体に記録して、すぐ取り出せるようにしておかないといけない。

 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」というのはあまりにも有名な言葉だが、一方、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」というのもあって、実は、経験にも学び得ないのが私たちだ。そこで、--歴史々々、と、事あるごとに歴史の大切さが叫ばれるのだ。

 東洋文庫は、大正13(1924)年、三菱第3代社長の岩崎久彌(ひさや)によって設立された東洋学の研究図書館で、現在、約100万冊を蔵書するという。そのなか、本書では、〈文明・国家・宗教の成立〉〈民族の移動と東西交流のあけぼの〉〈広がりゆく世界〉〈専制国家の隆盛〉〈激動の近代アジア〉の5章を設けて、それぞれえりすぐりの史資料約100点を、見開きで要領よく紹介している。一読、東洋をはじめ世界と日本との密接な関係への理解が進む。(山川出版社・2000円+税)

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【プロフィル】多川俊映

 たがわ・しゅんえい 昭和22年、奈良市生まれ。著書に『心を豊かにする菜根譚33語 東洋の知恵に学ぶ』(祥伝社黄金文庫)など。

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