産経ニュース

【書評】『サリンジャー』デイヴィッド・シールズ、シェーン・サレルノ著 坪野圭介、樋口武志訳

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評】
『サリンジャー』デイヴィッド・シールズ、シェーン・サレルノ著 坪野圭介、樋口武志訳

『サリンジャー』デイヴィッド・シールズ、シェーン・サレルノ著/坪野圭介、樋口武志訳(KADOKAWA、4200円+税)

 ■青春作家は戦争作家か?

 本書は驚くべき評伝だ。

 物理的側面に限っても、邦訳で750ページを超えるずっしりとした重さ。内容的側面でも、いわゆる地の文がなく、著者と作家、その家族や関係者など200人以上の証言があたかも演劇形式のようにえんえんと続くのだ。

 それもそのはず、2013年に原著が発表された本書は2010年、享年91で逝去した20世紀アメリカ主流文学最大の隠遁(いんとん)作家にして世界的ベストセラー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(または『ライ麦畑でつかまえて』)の著者サリンジャーをめぐるドキュメンタリー映画と同時進行で書かれ、ほぼ同時に陽の目を見ているためである。本書には映画には盛り込めなかった膨大な記録や発言なども盛り込まれ、いつしか評伝体裁の映画を観ている気にさせられるのは、いとも不思議な効果というほかない。その意味で、本書は評伝ジャンルの革命である。

 その結果、たとえばサリンジャーがノーベル文学賞作家ユージン・オニールの美しい娘ウーナ・オニールと恋仲でありながら、兵役をはさみ彼女を世界的有名人チャーリー・チャプリンに奪われて苦汁をなめた悲劇的体験の意義が再確認される。あたかもスコット・フィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』を彷彿とさせる失恋だが、これが以降の作家の少女遍歴に影を落としたのは疑いない。しかも彼は、第二次世界大戦中に前掲『キャッチャー』の草稿を執筆し続けていた。

「ライフ」のランキング