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【書評】社会部・花房壮が読む『歴史と私~史料と歩んだ歴史家の回想』伊藤隆著

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【書評】
社会部・花房壮が読む『歴史と私~史料と歩んだ歴史家の回想』伊藤隆著

『歴史と私~史料と歩んだ歴史家の回想』(中公新書、880円+税)

 ■史料発掘の魅力 秘話満載

 明治の元勲らの史料収集・編纂、昭和の主な歴代首相へのインタビューなどを通じて日本近現代史研究を牽引(けんいん)してきた第一人者による回想録だが、史書が綴られる舞台裏での生々しい人間ドラマも満載。とりわけ研究者仲間と宝の山を次々と発見するくだりは、著者の鼓動まで聞こえてきそうな冒険譚の趣もある。

 昭和7年生まれの著者は教員だった父の本棚にあった江戸時代の国学者、平田篤胤の本を通じて歴史研究を志す。東大入学後は当時盛んだった左翼史観に傾倒し、一時は「赤」にどっぷり漬かるが、共産党の組織のあり方などに不信感を抱き、決別する。

 その後、昭和史研究に没頭するが、当時は担当教授から「史料のない時代をどうやってやるんだ」と諭されることも。しかし腹を決めた著者は「なければ、自分で探します」と主張。それが生涯を貫く仕事のスタイルとなった。

 史料収集の日々は興奮の連続だった。史料は史料を呼んだが、圧巻は皇道派の陸軍大将、真崎甚三郎日記発見の経緯だ。ある政治家の関係者が住む東京・世田谷に通っていた頃、周辺に由緒のありそうな家があり、表札には消えかかった「真崎」の文字。「もしや…」と思い人事興信録で調べると、甚三郎の住所と合致。一級史料発掘の手がかりをつかんだ瞬間だった。

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