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【書評】作家・畑中章宏が読む『死者のざわめき 被災地信仰論』磯前順一著

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【書評】
作家・畑中章宏が読む『死者のざわめき 被災地信仰論』磯前順一著

『死者のざわめき 被災地信仰論』磯前順一著

 ■民間信仰の広がりの中で

 4年前、震災から4カ月以上を経過したころ、私は初めて被災地を旅した。気仙沼駅から唐桑半島に向かうタクシー運転手から聞いた話が、メディアを介さず耳にした、被災者の最初の言葉だった。自宅は津波で全壊したものの、家族は全員無事だった。車も無傷だったので、地震の翌日から営業を再開した。高台に寄り道しながら当時の状況を説明するようすは、多くの報道関係者を案内してきたことをうかがわせた。

 本書にも、タクシー運転手の証言がしばしば出てくる。交通網が寸断された被災地に向かう者にとって、彼らは交通手段の担い手であり、情報の重要な媒介者でもあった。常磐線久ノ浜駅で客待ちしていた運転手は、ある家の跡地にある花は、津波で亡くなった女性を弔うため婚約者が供えにくるものだと言う。著者はその婚約者は、運転手本人ではないか、と想像する。

 報道陣とともに多くの遺体を目撃し、被災者の嘆き悲しむ姿を目にした運転手は、「精神的にどうにかなっちゃうんじゃないかというくらい苦しい仕事でしたね」と内面を吐露する。被災地における幽霊の目撃譚(たん)の出所は、タクシー運転手が他人から聞いたものが多いという。

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