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【書評】作家・那須田淳が読む『漂流郵便局 届け先のわからない手紙、預かります』久保田沙耶著

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【書評】
作家・那須田淳が読む『漂流郵便局 届け先のわからない手紙、預かります』久保田沙耶著

久保田沙耶著『漂流郵便局 届け先のわからない手紙、預かります』

 ■心の声に耳を傾けて

 バルト海に近い北ドイツの森に「花婿樫(かし)の木」と呼ばれる古木があって、見知らぬ未来の恋人を求める人が、自己紹介の手紙を送ると閲覧されるようになっている。

 もともとは、つきあいを禁じられた森の番人の娘と木こりが、木の洞(うろ)を使って手紙をやりとりし、恋を成就させた伝説がきっかけだった。それにあやかろうと、若者たちが木の洞に手紙を投げ込むようになり、村は木に専用のポストをかけたのは1927年のことだ。

 僕は、以前この“恋文の木”を調べてYA(ヤングアダルト)小説を書いたことがあるけれど、樫の木のポストは、まだ現役のはずである。『漂流郵便局』を手に取って、まっさきに浮かんだのがこのポストのことだった。

 漂流郵便局は瀬戸内海の粟島に実在する。アーティストの久保田沙耶が、作品制作のリサーチに訪れた島で、海岸にうち寄せられたおびただしい漂流物を眺めながら歩き、たまたま使われなくなっていた古い郵便局を見つけ、かつて行き交っていただろう手紙のことを考え、「届け先のわからない手紙」を受け付けて展示するこの不思議な郵便局の設立を考えついたという。

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