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【書評】『ピアノ音楽の巨匠たち』

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【書評】
『ピアノ音楽の巨匠たち』

ピアノ音楽の巨匠たち

 ショーンバーグ著の『ピアノ音楽の巨匠たち』の翻訳が最初に刊行されたのは1977年である。そして本年、この名著の増補改訂版の翻訳が刊行された。書物の重量感とそこに記されたピアノ音楽と演奏家についてのきわめて濃密な内容に圧倒された。

 初版当時よりも、今日では古楽器の奏法やその表現、19世紀および20世紀前期の往年の演奏家に対する複眼的な評価がなされるようになったこともあり、この書物の意義はきわめて高い。

 20世紀前期の往年の演奏家の演奏に対しては、とくに戦後、作品の真実を歪(ゆが)めた主観的で恣意(しい)的な演奏解釈として貶(おとし)める傾向があった。

 しかし、楽譜に忠実ないわゆる新即物主義的な演奏が客観的で正当であるという根拠はない。バッハやモーツァルト、ショパンやリストは実際、どのように演奏したのであろうか。演奏解釈において、歴史の中で作品演奏の伝統がどのように継承されていったのかということはきわめて重要である。

 ショーンバーグはこの書物において、バロック時代に遡(さかのぼ)って演奏の歴史を解きほぐす。そして近現代の記述では二次資料ではなく、生演奏はもちろんのこと、残されている音源に即して著者自身の耳の感性と判断を通して語る。その記述は演奏の現場に立ち会った者だけが執筆しうる臨場感と説得力に満ちている。

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