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【書評】書評家・石井千湖が読む『忘れられた巨人』(カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳)

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【書評】
書評家・石井千湖が読む『忘れられた巨人』(カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳)

『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳(早川書房・1900円+税)

霧に覆われた忘却の世界で

 残酷な使命を持って生まれた若者たちの青春が哀切なベストセラー『わたしを離さないで』から10年。カズオ・イシグロが久しぶりに長編を上梓(じょうし)した。記憶というテーマは共通しているが、アプローチの仕方がまったく違う。SF的な設定の『わたしを離さないで』が登場人物の覚えていることに光をあてているのに対し、古典的なファンタジーの枠組みを用いた本書は忘れたことを浮き彫りにする。

 舞台は6世紀か7世紀ごろのブリテン島(現在のイギリス)。異民族との戦いを制した伝説の英雄アーサー王の死後、ある程度の歳月が流れたとおぼしき時代に、物語の幕は開く。主人公のアクセルとベアトリスは、小さな村のはずれに住む老夫婦だ。村人はふたりを見下し、家で蝋燭(ろうそく)を使うことさえ禁じる。夫妻は息子に会うため、鬼が跋扈する荒野へ旅立つ。

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