産経ニュース

【書評】書評家・倉本さおりが読む『それを愛とは呼ばず』桜木紫乃著

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評】
書評家・倉本さおりが読む『それを愛とは呼ばず』桜木紫乃著

『それを愛とは呼ばず』桜木紫乃著(幻冬舎・1400円+税)

思い上がりのなれの果て

 いとしい。かなしい。

 どちらも「愛」という字があてられる。だが「愛しい」と書けば、その中身は区別がつかなくなってしまう。

 54歳の亮介は、地元・新潟で辣腕(らつわん)の女社長として名をはせる10歳年上の妻・章子を突然の事故で失う。義理の息子の画策によって社内の経営から追われた彼は、職探しの合間に立ち寄った銀座の老舗キャバレーで、29歳の紗希に出会う。紗希もまた、10年所属したタレント事務所から追われた人間だった-。

 再就職先で亮介がありついた仕事は、新千歳空港の外れにある廃虚同然のリゾートマンションの営業。詐欺まがいの現実と見学客の罵倒に耐え切れなくなった亮介は、深入りするつもりもないくせに紗希と再会することを自分に許してしまう。そうした男のずるさと、他人の不幸に惹(ひ)かれる女のさもしさが、互いの欠落をいびつに埋めていく。

「ライフ」のランキング