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【書評】文化部編集委員・喜多由浩が読む『残夢の骸 満州国演義 9』船戸与一著

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【書評】
文化部編集委員・喜多由浩が読む『残夢の骸 満州国演義 9』船戸与一著

満州国演義

■激動の時代描く大作完結

 大作である。週刊誌での第1部連載開始から10年。原稿用紙にして約7500枚になる「満州国演義」全9巻が本作で完結した。

 全体の物語は、張作霖(ちょう・さくりん)爆殺事件が発生した昭和3(1928)年に始まる。主人公は、敷島家の4兄弟だ。東京帝大出身で外務省の高級官僚である長男。けんかで左目を失い、満州の馬賊になった次男、陸士を出て関東軍の憲兵となる三男、早稲田の学生で無政府主義に傾倒する演劇青年だった四男-。それぞれの「満州」は、当時の日本人が抱いた志(こころざし)や欲望、夢。あるいは、矛盾や狂気といったものの“姿見”なのであろう。

 日本が満州経営に関わったのは日露戦争終了(1905年)から終戦(45年)までの40年間でしかない。

 だが、それは濃密かつ、激動、可能性の時代であった。明治維新以降、「坂の上の雲」を目指してまっしぐらに突っ走り、アジア諸国に先駆けて近代国家の仲間入りを果たした日本が、対英米戦争に敗れ、完膚無きまでにたたきのめされる。著者の「あとがき」によれば、それは『満州を巡る諸問題を軸に展開してゆく』のだ。

 全巻を通底する“軍部悪玉論”的な思想には注文をつけておきたい。軍による残虐かつ卑劣極まりない描写は、いかに小説といえども、筆が滑りすぎだろう。物語のスケールの壮大さ、多くの資料にあたった緻密かつ詳細な記述には敬意を表してやまない。だからこそ「一面的」な軍部の描き方は残念であった。

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