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【書評】楊海英(静岡大教授)が読む『西太后秘録 近代中国の創始者』ユン・チアン著、川副智子訳

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【書評】
楊海英(静岡大教授)が読む『西太后秘録 近代中国の創始者』ユン・チアン著、川副智子訳

『西太后秘録 近代中国の創始者』ユン・チアン著、川副智子訳(講談社・上下各1800円+税)

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 清朝というと、○朝という呼び方で定着している「中国の歴代王朝の一つ」というイメージが日本や中国にある。しかし、それは間違いである。清の国号はダイチン(Daicing)で、漢字では大清と表記する。大清は「大いなる清」という意味ではなく、満洲語のダイチンに対応した当て字にすぎない。本書の著者は大清=ダイチンをダーチンと発音し、「大いなる純潔」だと表面的な解釈をし、満洲語と清史に無知なことが露呈している。ちなみに満洲も満という洲ではなく、マンジュというツングース系の民族名を漢字であらわしただけである。

 このように、漢字で書かれた非中国系の諸民族に関する史料は誤解を惹起(じゃっき)しやすい存在だ。漢文史料を客観的に選別し、第1次史料であるマンジュ語と組み合わせて駆使できるのは日本と欧米の研究者である。中国人研究者はマンジュ語史料を軽視しているか、読む努力を怠っている者が多いので、世界の学界と比肩できる成果は少ない。本書の著者もほとんど中国語、それも2次史料に依拠しているので、目新しい学問的な発見はない。

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