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【新・仕事の周辺】津田直(写真家) サーメ人が受け継ぐ知恵とぬくもり

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【新・仕事の周辺】
津田直(写真家) サーメ人が受け継ぐ知恵とぬくもり

(C)NAO TSUDA

 そうならば今でもトナカイ牧夫を営んでいる人々と出会い、そこに受け継がれている知恵に触れたい。そう思って、ある家族のもとを訪ねた。サーメの人々はもともとその多くが狩猟採集民族として伝統的な暮らし方をしていたが、現代ではトナカイ牧夫として生計を立てているのは一部の人々だけである。また彼らの営みにしても、すべて古きしきたりを保っているわけでは当然ない。が、それでもサーメの人々が自然界や動物たちとの対話を大切に生きていることを、彼らの行為は物語っていた。

 とある冬の午後、雪深き広場に森から数百頭のトナカイの群れが集められた。木の囲いを築き、数十頭ごとに分けながら、家畜として育てるものや食用になるものを選別する姿があった。大きな角を持つトナカイの群れと向き合う男たち。その隣にはたくましい女性たちの姿もあり、皆が白い息を吐きながら作業に勤(いそ)しんでいた。

 よく見れば、極寒をしのぐための冬用の靴は毛皮から作られ、腰に下げられたナイフの持ち手には角が生かされている。人間と動物が共に生きてゆくためには、時に厳しい選択も強いられるが、サーメの人々は動物の生命を受け継ぐときに、骨の一片も無碍(むげ)に扱うことはしないのだ。

 トナカイとともに歩む牧夫の営みに、千年を超えて続いてきた知恵とぬくもりを見せてもらった。

【プロフィル】津田直

 つだ・なお 昭和51年、神戸市生まれ。自然と人間の関係性を問い直す独自の風景表現に取り組む写真家。平成21年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)受賞。作品集に 『漕』『SMOKE LINE』『SAMELAND』 など。

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