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【書評】細谷正充が読む『悪足掻きの跡始末 厄介弥三郎』佐藤雅美著

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【書評】
細谷正充が読む『悪足掻きの跡始末 厄介弥三郎』佐藤雅美著

『悪足掻きの跡始末 厄介弥三郎』佐藤雅美著(講談社・1600円+税)

未来に希望を持てない人に

 江戸時代、幕府の公用語で“厄介”と呼ばれる人たちがいた。武家の次男や三男で、分家や婿入りができず、当主の兄や、その跡を継いだ甥(おい)の世話になるしかない者のことである。仕事も嫁もなく、冷遇されながら、家の片隅で身を小さくしながら、一生を終える。佐藤雅美の最新作は、そのような境遇から脱出しようとした男の物語だ。

 旗本六百五十石の都築家の厄介である弥三郎。兄一家に疎まれながら、違法なことも辞さずに、小遣い稼ぎをして暮らしていた。だが、怪しい婿入り話がきっかけとなり、家を飛び出す。そして妻を得て、幸せを感じたのもつかの間、今までの因縁が繋(つな)がり合い、彼の人生は予想外の方向に転がっていくのだった。

 弥三郎の“厄介”という立場は、現代のニートやフリーターと通じ合うところがある。武家社会の歪(ゆが)みのしわ寄せといった面があり、一概に、本人の責任ということはできない。それだけに、人間として当たり前の幸せを求めずにはいられない、弥三郎の焦燥が胸を打つ。なんとか自由を勝ち取ろうとする、彼の行動を、応援したくなるのである。

 でも、弥三郎の足掻(あが)きが、やがて自分自身を追い詰めていく。無関係に見えた、ひとつひとつのエピソードが、いつしか絡まり、主人公の人生を激変させていく展開が、実に巧みだ。

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