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【書評倶楽部】興福寺貫首・多川俊映 『堕ちられない「私」』香山リカ著

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【書評倶楽部】
興福寺貫首・多川俊映 『堕ちられない「私」』香山リカ著

多川興福寺貫首

 □『堕ちられない「私」 精神科医のノートから』

 ■「寄り道」や「廻り道」の提案

 現代の日本社会をおおづかみしてサラッと描いてみれば、大体こういうことになる、というような一書だ。

 何事につけ上昇志向は良いことで、だから上昇=善であり、清く正しいことも、もとより善。ポジティブ・シンキング、人間そうでなくてはいけない-。というので皆、遅れてはならじ、と頑張っている社会なのだ。

 著者は、そういう社会をたとえば、〈ハマちゃんや寅さん不在の時代〉とみて、つぎのように述べる。「かつては寅さんのような何をやっているのか正体が知れないちょっと怪しい人が親戚(しんせき)や近所に一人二人いたものだが、そういう類の人はあまり姿を見ることがなくなってしまった。いまの社会は清く正しい生き方ができない人を排除しようとする空気が強い」

 唯識仏教によれば、人間の心のはたらきは全部で51あり、善と悪(煩悩)とが拮抗(きっこう)している。とはいえ、煩悩の力はすさまじく強力で、健全どころか、元来、人間は放逸で懈怠(けたい)にできている-。だからこそ、不放逸と努力が要請されるという構図だ。それが逆転すれば、あまりに健全すぎて、むしろ怖い。

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