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【書評】『日本航空一期生』中丸美繪著

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【書評】
『日本航空一期生』中丸美繪著

『日本航空一期生』

 ■「エアガール」と呼ばれて

 スチュワーデスが、キャビンアテンダントに変わったのはいつからだろう。日本航空が発足した昭和26年当時は、「エアガール」と呼ばれていた。社内で「神話の一ケタ」とあがめられ、今は80歳を超えている彼女たちの苦労は、並大抵のものではなかった。

 なにしろ乗客のほとんどが、飛行機に乗ったことがない。サンドイッチにはさまっているチーズを「せっけん」と勘違いする。座席でズボンを脱ぎ始める。羽田発札幌行き便が、エンジントラブルで米軍の三沢基地に緊急着陸することもあった。国鉄の駅長と交渉して、電車の便を確保するのも、彼女たちの仕事だった。

 指揮者の斎藤秀雄や女優の杉村春子の生涯を追ってきた著者は、日航の元客室乗務員である。トラブル続きの果てに破綻に追い込まれ、今は再生を果たしたかつての勤め先を複雑な思いで見つめてきた。久しぶりの同期会出席をきっかけに、創業時の姿を知ろうと思い立ったという。

 資料を調べるなかで、一番惹(ひ)かれたのが、第2代社長の故・松尾静磨だった。

 敗戦後GHQが、日本のあらゆる飛行機を破壊し、航空関係の活動を禁止したことはよく知られている。戦前、飛行機エンジンの技術者をへて逓信省航空局の役人だった松尾は、占領軍の航空保安施設の維持運営に携わっていた。

 民間航空再開の日を夢見て、人材を集める松尾の前に立ちはだかったのが、吉田茂首相の側近、白洲次郎だった。日本の空は、外国の航空会社に任せればいい。これが持論だった。松尾たちが世論を味方につけて、巻き返しに成功しなかったら、日航の存在はなかったかもしれない。

 著者の筆に力が入るのは、社長時代の松尾が安全運航にかける、執念である。時間があくたびに、整備の現場に足を運ぶ。帰宅してからも、少しでも天候が悪いと運航状況を確かめる電話をかける。

 少しでも不安や危険を感じたら、迷わず引っ返す。機長のこんな決断を何より評価した。「臆病といわれる勇気をもて」。実は松尾の名言であると、本書で知った。(白水社・1900円+税)

 評・田中規雄(論説委員)

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