産経ニュース

【書評】『ちいさなかみさま』石井光太著、今日マチ子絵

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評】
『ちいさなかみさま』石井光太著、今日マチ子絵

『ちいさなかみさま』

 ■幸せの処方箋をみつけた

 このところいやなニュースばかりが目につく。世の中、それだけ生きづらくなっているのだろうか。

 ところでかつて戦時中のドイツで、ひそかに読まれていた詩集がある。『飛ぶ教室』などの児童文学でも知られるケストナーの『人生処方詩集』だ。ひそかに…というのは、ケストナーは、当時ナチスによって禁じられた作家だったからだ。でもこの詩集は、砲弾の飛び交う戦場でも、ユダヤ人のゲットーでも読み継がれていたという。詩に描かれているのは、だれもが感じる気持ちであり、「結婚が破綻したら」「孤独に耐えられなくなったら」など、「つらいとき」や、「さびしいとき」に読めるよう処方もついている。

 石井光太著『ちいさなかみさま』に出合ったとき、すぐに思い出したのは、このケストナーの詩集だった。

 なにかで絶望し、苦しんでいるときでも、人はもがきながら、自分にしか見えない光を暗闇の中に灯(とも)し、ゆっくり歩んでいくものだ。そのとき心を救済し、支えになってくれるものを石井は「ちいさなかみさま」と呼ぶ。

 今日マチ子の素敵(すてき)な挿絵がついたこのショートストーリー集には、日常で石井が出合ったそんな「ちいさなかみさま」たちがたくさん登場する。

 たとえば、認知症の夫が、自分を見て違う女と勘違いし、別の名前を呼び始めたとき、看護師たちが妻についたやさしい嘘と、その裏にあるもう一つのどんでん返しが胸を打つ「妻の名前」。

「ライフ」のランキング