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【書評】プロデューサー・近畿大教授、横山隆晴が読む『ありがとう、お父さん 市川團十郎の娘より』市川ぼたん著

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【書評】
プロデューサー・近畿大教授、横山隆晴が読む『ありがとう、お父さん 市川團十郎の娘より』市川ぼたん著

「ありがとう、お父さん」

娘が初めて語る涙の真情

 市川團十郎さんが逝去されて2年。娘の渾身(こんしん)の執筆による本作が上梓(じょうし)された。父親を喪(うしな)ってから始まる、春、夏、秋、冬、そして再びの、春。その無常に流れてゆく季節の移ろいに震え、立ち竦(すく)みながら、しかし懸命に、彼岸へ旅立ってしまった父への真情を娘が一文字一文字に刻んだ。本作は、娘から亡き父へ贈る鎮魂の旋律によって奏でられている。

 歌舞伎俳優・十二代目市川團十郎の知られざる素顔を、ここで初めて私たちは知ることができる。「見得(みえ)」や「六方(ろっぽう)」といった、いわゆる「荒事(あらごと)」を芸の真骨頂とする團十郎さんの舞台上での豪快で力強い姿の奥に、とめどなく優しく繊細な父親としての柔らかな笑顔が、娘の語りによって鮮やかに浮かび上がってくる。

 きっと娘は、涙を溢(あふ)れさせながら、しかし、その哀(かな)しみの感情で文章を濡(ぬ)らさないように、本作を綴(つづ)っている。それは、日本舞踊「市川流・三代目市川ぼたん」として、自らも秀でた表現者である著者が、“表現する”ことの厳しさの奥義を父親の後ろ姿から体得している証左として読み抜くことができる。

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