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【きょうの人】「九年前の祈り」で芥川賞 小野正嗣さん「オニイが喜んでくれたらとてもうれしい」

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【きょうの人】
「九年前の祈り」で芥川賞 小野正嗣さん「オニイが喜んでくれたらとてもうれしい」

記者の質問に答える芥川賞を受賞した小野正嗣さん=15日午後、東京・内幸町の帝国ホテル(宮崎裕士撮影)

 「芥川賞候補が4度目だと知って、娘は『じゃあ3回も落ちたの?』って。ハハッ」。冗談交じりの巧みな話芸で周囲を笑いの渦に巻き込む。率直な物言いの小学生の娘ら1男3女に胸を張って自慢できる吉報を手に入れた。

 カリブ海の仏語圏文学の研究で知られ、現在は立教大で批評理論を教える。創作願望が頭をもたげたのは大学院時代。大江健三郎や中上健次といった「土地の力」を見つめた作家を愛読し、海外作家の原書にも浸るうち、「自分でも書いてみたい」と筆をとった。濃密な作品世界は、生まれ故郷である大分県の南部、リアス式海岸に縁取られた小さな集落の風景と重なる。「とびきり面白いお話をしてくれるおじさんやおばさんとか、存在自体が嘘のような変わった人がたくさんいて、都会とは違う独特な時間が流れている。一つの土地を掘り下げることで普遍的なものを描けたら」

 そんな海辺の集落を舞台にした受賞作「九年前の祈り」では、幼い一人息子を抱えて郷里に戻ったシングルマザーの苦悩と救いを描く。9年前にカナダの教会で郷里の女性たちとともにささげた「祈り」が、現在の主人公の心境と重なっていく場面が印象的だ。

 地元に残った3つ上の兄が昨年10月、脳腫瘍のため他界。余命を知らされ、迫り来る兄の死を思いながらの執筆だった。「長い学生生活を経済的に援助してくれ、かわいがってくれた。あの『祈り』の中には僕自身の気持ちが込められているのかも」。15日夜、受賞決定後の会見で、そんな思いがあふれた。「オニイ(兄)が喜んでくれたら、とてもうれしい」(海老沢類)

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