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【新・仕事の周辺】秋山真志(作家) 文学史に残すべき鎌倉文士

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【新・仕事の周辺】
秋山真志(作家) 文学史に残すべき鎌倉文士

 鎌倉に住んでもうすぐ33年になる。いま、鎌倉文士を中心の話題に据えながら縦横無尽に『鎌倉物語』という本を書き下ろしている。ぼくは最後の鎌倉文士、里見●や永井龍男らと酒席を共にした最後の世代。また、鎌倉在住の詩人の田村隆一や北村太郎とも深い交流があった。酒飲みとしての小林秀雄と小林と中原中也の壮絶な絡み方についても書いている。鎌倉文士を主人公にした鎌倉の飲み屋文化史、恩師である朝日新聞学芸部の名物記者にして鎌倉山教会牧師との交わり、草森紳一や朝倉喬司らの酒席での狂態、鎌倉ならではの不思議な出会いの数々…知られざる文学史の一面から鎌倉の昼の顔、夜の顔、裏の顔など不思議と驚きとステキに満ちた、鎌倉暮らしの日々を書き下ろした、軽妙洒脱(しゃだつ)なエッセイ集である。

 白樺派の文豪、里見●先生はぼくが初めてお宅に伺った頃、当時、90歳を過ぎておられた。内定が決まっていた出版社の社長の命令で大学4年の冬休み、里見邸に大掃除に出かけ、それから忘年会となった。なにせ里見先生の実の兄貴は有島武郎、師匠が泉鏡花、親友が志賀直哉や芥川龍之介という文学史上に燦然(さんぜん)と輝く作家ばかりで、話を聴いていて自分が文学史の一場面に立ち合っているような気がした。有島武郎情死のくだりになると「自殺はいけない」といわれ、この老文豪がおいおいと泣くのである。いまでもぼくの年で、里見●と一献やったなんていう人はまずいないと思う。

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