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日常を離れてこそ見える世界 上橋菜穂子さん長編小説「鹿の王」

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日常を離れてこそ見える世界 上橋菜穂子さん長編小説「鹿の王」

上橋菜穂子さん(野村成次撮影)

生きる喜び問い直す

 児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞を受賞した作家の上橋菜穂子さん(52)が、受賞後初めての長編小説『鹿の王』(上・下巻、KADOKAWA)を刊行した。異世界を舞台に、一人の男の生きざまと感染症との闘いを通じて、命の意味、生きることの意味を改めて問い直す作品だ。(戸谷真美)

                   

 戦士として名をはせたヴァンは、大国との戦いに敗れ、岩塩鉱山で奴隷として働いていた。ある日、鉱山を謎の獣たちが襲う。獣にかまれて奴隷たちは死に絶えるが、ヴァンと幼い女児だけが生き残り、鉱山を脱出する。だが、獣にかまれて後、ヴァンは自身の体に変化が起きていることに気づく-。

 物語の構想が浮かんだのは約3年前のことだという。児童向けのファンタジー巨編「守り人」「獣の奏者」両シリーズを書き終えた虚脱感と自身の更年期が重なった。「暑くもないのに、いきなり汗が出てくる。体調が悪いというだけでなく、心まで不安定になった。そのとき、自分が思う以上に『心は体に支配されている』と実感しました」。多くの人は心、つまり意識こそが「自分」であると認識し、体と心の関係を意識することは少ない。だが、上橋さんは更年期という“病”を通じて、その関係に気づいたという。

 ヴァンは生き残ったものの、獣に襲われて以来、時折意識がゆらぎ、生物としての本能のみに従うような「心と体が“裏返る”」経験をする。体に心を支配される経験はヴァンに「人でなくなる」恐怖を与える。

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