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【新・仕事の周辺】山田太一(脚本家、小説家) 魂のはなし

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【新・仕事の周辺】
山田太一(脚本家、小説家) 魂のはなし

山田太一さん

 今年の一月十五日に、詩人の吉野弘さんが亡くなった。八十七歳だった。お家が富士山の近くでうちからは遠いのでお葬式に伺うということはなかったが、あとでいただいた夫人と娘さんからの手紙には、思いがけなく沢山の人々が惜しんでくれて、ほんとにうちのお父さんのことかと思ったと書かれていた。

 御家族の言葉は控えめになるから、ほんとにあのすばらしい詩人を「ただのお父さん」とばかり思っていらしたわけはないが、吉野さん自身は「ただのおじいさん」であろうとなさっていたと思う。無理にでもそうありたいと、どこからでも富士山が見える町や茶畑の道をお元気のうちは自転車で走り回っていらしたにちがいない、と。

 こう書くと、かなり親しい交際があったようだけれど、実はお目にかかったのは一度だけである。ずっと昔、何十年も前(私も八十歳だ)吉野さんがホストをなさっていたラジオ番組に招(よ)んで下さったのだった。すでに御作に敬服していたので、すぐ伺った。

 その後、御作の選集に短文を寄せたり、詩集の文庫にあとがきのようなものを書いたりしたが、そのくらいが長かった。

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