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【書評】『阿蘭陀西鶴』朝井まかて著

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【書評】
『阿蘭陀西鶴』朝井まかて著

『阿蘭陀西鶴』朝井まかて著(講談社)

 ■物語の力への信頼と祈り

 おあいが可哀想(かわいそう)だ。盲目の身ながら、母に教わり料理も裁縫もこなす。幼い弟たちの面倒を見る。けれどその母が死んだとき、父は娘に頓着せず、我(わ)が身の不幸を嘆くだけ。そればかりか、妻の死を悼む千句の俳諧集を出版し、自分の名を売る始末。

 この父が井原西鶴である。

 本書は江戸時代前期を代表するベストセラー作家・井原西鶴を、娘の語りで綴(つづ)った作家小説であり父娘小説だ。

 ここでいう阿蘭陀(おらんだ)とは、異端という意味である。自ら阿蘭陀西鶴と称し、新しいことに目がない。手前勝手でええ格好しぃで自慢たれ。だから最初は、西鶴に腹が立つばかりだった。しかし次第に印象が変わっていく。

 西鶴最大の功績は、大衆小説という新ジャンルを切り開いたことだろう。それまで物語と言えば、英雄の活躍を面白おかしく語るものばかりだったところに、名もない庶民を主人公に据えた。彼の書いた浮世草子はどれも町人のありのままの姿が活写されている。現代の私たちが楽しんでいる娯楽小説の原型を作ったのが、井原西鶴なのだ。

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