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【編集者のおすすめ】『繁栄の昭和』筒井康隆著

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【編集者のおすすめ】
『繁栄の昭和』筒井康隆著

『繁栄の昭和』筒井康隆著(文芸春秋)

 ■生き延びるための最強ツール

 傘寿を迎えた著者の8年ぶりの短篇集である。江戸川乱歩や海野十三といった昭和の探偵小説へのオマージュ。リア王役者が舞台上で「君の瞳に恋してる」を歌い踊り、筒井康隆は深田恭子や大江健三郎と共演する。虚実いり乱れた作品世界を自在にあやつる筆致は老練かつ華麗である。

 収録作「役割演技」で、老作家が小説論を展開する。

 「あらゆる小説を書いてあらゆることを書き尽そうとするんです。(中略)何を書こうが基本は現実のこの世界を表現することになるんだからと思ってね。だけどそれは間違っているのかもしれない」

 ええそうよ、あなたのいるここだけが現実の世界じゃないのよ、と受ける美女は、某国を想起させる管理国家で、ある役割を担っている…というのが、小説の筋書きだ。

 しかし、私たちも会社や家庭やネット上で、なんらかの「役割演技」を続けているのではないか? 最良のSF的想像力で描き出されたこれらのビジョンは、複雑化した場ごとに私たちに何らかの役割を強いてくる現実世界を生き延びるための最強のツールである、と確信している。

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