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【書評】妊娠~子育て 泣き笑い 『きみは赤ちゃん』川上未映子著

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【書評】
妊娠~子育て 泣き笑い 『きみは赤ちゃん』川上未映子著

 〈生むの、ぜんぜん易しくねえよ! 案じさせろや!〉

 案ずるより生むが易し、という諺(ことわざ)に対しての言葉だ。著者が35歳で妊娠、出産、そして我(わ)が子が1歳になるまでをつづったエッセーである。

 妊娠に気づき訪れた産婦人科のモニターで黒い点を見つけた時、「おったですか!」と涙を流し、夫である作家の阿部和重さんと「おったねー」「おったなー」「なー」と言い合った。その日から、嬉(うれ)し涙や悲しみの涙、不条理な思いの涙や切ない涙など、多様な涙を流してきた様子が美しい感性で描かれる。

 出生前診断を受けたことで心に小さく残った空白。母乳の出をよくするための乳首マッサージをしているうちに、第2次性徴期直前の9歳の頃の気持ちが甦(よみがえ)ったこと。性交を求められなくなったことで少女でも女でも母でも祖母でもない自分の存在の不確かさにいらつく思い。そして、帝王切開による産後の痛みのなか、もしも赤ちゃんに何かあっても今の自分には助けられないことが情けなかったこと。夫とのどうしても埋められない溝と、同時に我が子をこれほど愛(いと)おしいと共有できるのは世界で夫とだけだと思い直したこと。

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