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【書評】追体験で作品世界を深く 『美との対話 私の空想美術館』粟津則雄著

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【書評】
追体験で作品世界を深く 『美との対話 私の空想美術館』粟津則雄著

 美術作品に接する際、独白と対話を心がけている。作品が語りかける独白に慎重に耳を傾けた後、抱いた疑問などを今度は作品に問いかけ、その内なる声と対話するなかで作品を読み解いてゆく。私に限ったことではないだろう。古今の傑作をめぐる著者の鑑賞体験がつぶさにつづられた本書を一読して強く思うのは、例えば独白を少しも逃さない強靱(きょうじん)でしなやかな目、作品への崇敬と愛情にあふれる、広くて深い対話である。

 例えば、市民が銃殺された光景を描くゴヤの「マドリード 一八〇八年五月三日」を初めて複製写真で見た著者は、「全身が奥深いところからざわついて来るような恐怖感」を覚えた。銃殺を恐怖に思うのは当然だろう。でも、ただそれだけが理由なのか?

 プラド美術館を何度も訪ね、実作に接するうち、「恐怖が、このように生き生きとした手触りをもって表現された例を他に知らない」と言い切るほどの恐怖に彩られている真の理由に気づき、「人間という存在の闇」を見つめたゴヤの神髄に行き着く。

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