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【書評】文芸評論家・池上冬樹が読む『怪談』小池真理子著

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【書評】
文芸評論家・池上冬樹が読む『怪談』小池真理子著

『怪談』小池真理子著

この世とあの世の繋がり

 怪談文芸が注目を集めている。特に実話怪談と銘打たれた文庫書き下ろしが隆盛を誇り、次々と新刊が出ているし、実話以外の正統派の怪談も人気がある。精神の暗黒を追求するノワール小説が90年代以降増えているが、東日本大震災以後、より死者の魂や存在が身近になり、眼には見えないものにこそ人の心を動かすものがあることを知るようになったからだろう。

 小池真理子の新作はそのものずばり怪談だが、元々小池は初期にモダンホラー『墓地を見おろす家』、サイコ・サスペンス『蠍のいる森』などを著し、恋愛小説に力点をおいてからも幻想怪奇小説集『水無月(みなづき)の墓』『夜は満ちる』などの傑作を送り出している。今回も例外ではない。

 ここには7篇収録されているが、いずれも傑作ばかり。とりわけ岬から身を投げた男友達のことを探る「岬へ」、バーに置き忘れられたカーディガンの持ち主を求めていくうち現実感覚を失っていく「カーディガン」、病死した妻と触れ合う「ぬばたまの」、息子の結婚式で出会った男が誰であるかに気づく「還る」の4篇がすばらしい。

 怪談は、とかく鬼面人を威(おど)すようなものが多く、また因縁話になりがちだが、小池はどちらも排除する。ひたすら静かで、因縁は語られないまま閉じられる。もちろん「岬へ」のように結末で鮮やかに反転する話もあるし、「還る」のように一瞬にして記憶が甦(よみがえ)り、目の前の存在の意味を見いだす仕掛けもある。

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