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【「戦後日本」を診る 思想家の言葉】橋川文三 「あの戦争」を問い続ける意味

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【「戦後日本」を診る 思想家の言葉】
橋川文三 「あの戦争」を問い続ける意味

 □東日本国際大准教授・先崎彰容

 なんという不器用な思想家だろう-これが20歳のころ、私が最初に作品を読んだときの橋川文三への印象である。

 橋川文三、と聞いてもピンと来ない人も多いかもしれない。彼は政治思想史家・丸山真男の、いわば「鬼子」である。晩年の三島由紀夫とのあいだに論戦をくり広げ、三島も一目置いた思想家、それが橋川文三だった。三島は天皇についての自分の考えが論破されたとき、橋川を天才であると認めた。

 どうして彼が不器用に見えたのか。それは彼が、生涯をかけて戦争体験を考えたからだ。戦後、多くの人たちは次の時代、新しい時代へと突き進んでいった。だが橋川は違った。彼は戦中の体験に「躓(つまず)く」。そして困惑を一生背負ったまま、千鳥足で戦後を生きていった。作品を読みながらこのことに気づいた私は、彼を直感的に「不器用な思想家」だ、こう考えたわけである。

 橋川が、自身の心のなかを覗(のぞ)き込む。あのとき何が自分をとらえ、離さなかったのかを問いただす。すると「ロマン主義」こそ、戦争体験そのものだと橋川は思った。

 ではロマン主義とは何か。私たちは普通、世界を理解する共通の「ものさし」をもっている。たとえば最近なら冷戦=米ソ対立の時代だったとか、一億総中流の時代なのだと言うことで、私たちは現実を理解する。こうした世界観=ものさしを前提に、他人と話を進めていくことがしばしばある。

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