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【書評】『キリンの斑論争と寺田寅彦』松下貢編 模様の謎を整理した炯眼

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【書評】
『キリンの斑論争と寺田寅彦』松下貢編 模様の謎を整理した炯眼

 この説に対して生物学者の丘英通から直ちに反論があり、斑模様は色素の配列の粗密が異なっているだけであって、物理的に組織が異なっているわけではないから平田説はナンセンスだと断じたのである。おまけに、単にみかけの姿が似ているだけで非生物の田んぼのひび割れと動物の紋様が同じ起源だと論じるのは極めて危険、と平田を強く批判したのだ。これに平田も反撃し、さらに他の動物学者と物理学者が次々論戦に参加して「キリンの斑論争」へと発展したのだった。

 結局、寺田寅彦が根源の問題は何かについての論説を発表して論争は収束した。寺田は一様な状態からいかにして物理的に不連続が生じるかについてさまざまな場合を列挙し、また生物における細胞分裂や組織の発生過程での斑紋形成の可能性を論じて問題を整理したのである。

 現在の研究状況から過去に何が問われたか、寺田の炯眼(けいがん)はどこに向けられていたかを知ることができ、楽しく読み進めることができた。(岩波科学ライブラリー・本体1200円+税)

 評・池内了(総合研究大学院大名誉教授)

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