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「見えないもの」に迫る 3.11後の文学 批評家の視線 

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「見えないもの」に迫る 3.11後の文学 批評家の視線 

 ■死者めぐる思考/無意識な刻印/言論の抑圧

 東日本大震災から3年を迎えるのを前に、3・11後の文学作品を論じた批評書が続々刊行されている。死者論や作家の無意識、震災後の言論の壁…。多彩な切り口の論考から、表現の奥に潜む「見えないもの」に迫ろうとする批評家たちの姿が浮かび上がる。(海老沢類)

                   ◇

 ■「祈り」を見据え

 「死者について語った本は以前からたくさんある。でも震災以前はその言葉をまじめに受け取る人が少なかったと思うんですよ」

 そう語るのは季刊文芸誌『三田文学』編集長も務める批評家の若松英輔(えいすけ)さん(45)。1月に刊行した自著『涙のしずくに洗われて咲きいづるもの』(河出書房新社)でそんな死者をめぐる思考を深めている。

 震災後、死者の記憶や声をつづった小説がクローズアップされた印象がある。なかでも、若松さんが紙数を多く割くのが、いとうせいこうさん(52)の中編『想像ラジオ』だ。津波で木の上に流された男がDJを名乗り、想像力でつながるラジオ放送を始める物語は、目には見えない死者が確かに存在していることを軽妙な語り口で宣言する。若松さんは4年前に自身の妻を亡くしたことにも触れながら、生者に寄り添って支えてくれる〈生きている死者〉という言葉を繰り返し使う。

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