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【翻訳机】中村妙子(翻訳家) 幼いころのストーリーの濫読

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【翻訳机】
中村妙子(翻訳家) 幼いころのストーリーの濫読

 翻訳は近年、私にとって、仕事というより趣味となっているようです。以前と違って、長時間を充てているわけでなく、気の向いたときにパソコンの前にすわっています。それだけに、単調な生活にリズムを添える働きが強まっているようにも思うのです。

 小学校の低学年のころ、我が家の書棚に「世界大衆文学全集」という小型の本が並んでいました。大人対象の読みものだったのでしょうが、総ルビでしたから、『家なき子』『ルパン』から始めて、『巌窟王(がんくつおう)』『クオ・ヴアヂス』と読み進みました。この全集は言ってみれば、有名な大衆文学の抄訳版でした。ユゴーは『九十三年』、ディケンズは『オリヴアー・ツウイスト』、『ヂエイン・エア』も、『三銃士』も収められていました。取りつきやすさ、読みやすさを狙っていたのでしょう、訳者も小説家の名が目立ち、デュマの『鉄仮面』は大仏次郎訳、ケインの『放蕩(ほうとう)息子』は菊池寛訳でした。

 難しい表現は読みとばしていたのでしょうが、子供ながらに、おかしいなと思うことはあったのです。『三等水兵マルチン』という、イギリスのユーモア小説。艦上演芸会の掛け声が「イヨーッ、成田屋!」でした。成田屋が歌舞伎の役者さんだということは知っていましたから、「変だなあ」と首をかしげました。

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