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荻世いをらさん 猫をめぐる3編「ピン・ザ・キャットの優美な叛乱」

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荻世いをらさん 猫をめぐる3編「ピン・ザ・キャットの優美な叛乱」

 ■「言葉の外」にある救い

 「動物は社会の規範を超えた存在。傍らに猫がいることで、人間が異化されるのが面白い」。そう話すのは、猫をめぐる3編を収める『ピン・ザ・キャットの優美な叛乱(はんらん)』(河出書房新社)を出した荻世(おぎよ)いをらさん(30)。読者を「言葉の外」へと連れだし、世界の見方を変えさせる刺激的な作品集に仕上がっている。

 20代の男が恋人の家で飼い始めたさび柄の雌猫〈あじ〉が、なぜか想像妊娠を繰り返す。無事結婚した2人のもとにやがて、〈自己を忍んで生きる〉ような〈あじ〉とは対照的な、欲望の赴くまま生きる猫〈ピン〉が加わる。男女が恋愛し結婚して最愛の息子を授かる…。平板にも思える日常が、言葉の通じない猫や赤ん坊との“対話”を書き込むことで、より重層的に映る。〈あじ〉の死後も、〈ピン〉が以前と変わらず食事の順番を待ち続ける場面は印象的だ。

 「一見どうしようもない行為だけれど、それによって主人公の男は〈あじ〉がかつて本当に存在していたことを知らされる。その瞬間、悪さをして人を苦しめる象徴だった〈ピン〉が救いの象徴に反転するんです。どん詰まりに陥ったときに、どうすればいいのか? 猫という(人間の規範から外れた)外部と関係性を結ぶことで救われることもある」

 早稲田大学在学中に文芸賞受賞作「公園」でデビューしてはや7年。文体や題材の試行錯誤を重ね、「苦しみの分だけ楽しみが返ってくるようになった」と笑顔を見せる。実際に2匹の猫を飼い、東京から名古屋に引っ越し、子供も授かった。本作には、そんな自身の実生活が多分に投影されている。もっぱらの関心事は、初めて暮らす名古屋の方言だという。

 「標準語は相手の懐に入りにくいものだけれど、名古屋弁はスルスルと下から自然に入っていく感じ。面白い距離感ですよね」。独特の方言を小説の仕掛けとして使う日も近いかもしれない。(海老沢類)

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