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【国語逍遥】(37)浮いてこい 「正体」がやっと浮いてきた 清湖口敏

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【国語逍遥】
(37)浮いてこい 「正体」がやっと浮いてきた 清湖口敏

 「ハイ、お嬢ちゃん、『沈め』と言ってごらん」「沈めっ!」「ほうら、水の中の人形が沈んだでしょ。かわいそうだから今度は『浮いてこい』と言ってごらん」「浮いてこいっ!」「おや、浮いてきたよ」

 店のおじさんがそんな口上で中に水と人形の入った筒状の玩具を売るのを、魔法にかかったような心地で眺めていた私は、母にせがんでその玩具を買ってもらった。裸電球をつるした夏の夜店の風景に溶けこんだ、遠い日の記憶である。

 後に俳句歳時記で「浮いてこい」という夏の季語があるのを知り、さてはあの時の玩具が「浮いてこい」かと思ったが、多くの歳時記は「浮いてこい」を「浮き人形」の副題として挙げるだけで、詳しく教えていない。「浮き人形」については「水に浮かせる玩具」「入浴時に遊ぶ玩具。湯に沈めても浮かんでくるところから名付けられた」などと解説している。

 手元の国語辞書にあたってみた。中型辞書3点はどれも「浮いてこい」を見出しに採っておらず、しかたなく「浮き人形」をひくと、それぞれ次のような語釈を掲げていた。

 「蝋(ろう)塗りの小さな人形の底に樟脳(しょうのう)をつけ、水に浮かべて走らせるもの」(広辞苑)、「(1)壺の上に人形を立て、壺の下の方に差し込んだ笛を吹くと、人形が回る仕掛けの玩具。(2)水に浮かせて遊ぶ玩具。セルロイドなどの舟に小さな人形をのせたもの。樟脳などを利用して走るものもある」(大辞泉)、「ビニールなどで作った小さい人形や魚・鳥を試験管状のガラス筒に入れ、筒の上部に空気を残して薄いゴムで密閉する。指でこのゴムを押すと人形が水の中を浮き沈みする」(大辞林)。

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