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【書評】『小津ありき 知られざる小津安二郎』田中眞澄著 日本的無常観へ届く視線

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【書評】
『小津ありき 知られざる小津安二郎』田中眞澄著 日本的無常観へ届く視線

 2011年12月30日。小津安二郎研究の第一人者である田中眞澄さんが亡くなった。65歳だった。旺盛な仕事ぶりの中での突然の訃報だったので、すぐには信じられなかった。無念でたまらなかった。

 『小津ありき 知られざる小津安二郎』は、そんな田中さんの遺稿集。

 短めのエッセーが中心になっているけれど、どれにも第一人者ならではの「発見」がある。中でも重要なのは、こんな指摘だ。

 「小津の映画は家族の映画であるといっても、実は父親か母親がいない欠損家族というケースが多かった」

 「シチュエーションの設定に、既に別れが先行していた」

 「別れの究極が死であることは言うまでもない」

 「永遠の時間の中で、人間は必然として出会い、別れねばならぬ。人間が有限の存在である現実を認め、受け容(い)れること。それが小津安二郎が表現し、あるいは隠し味とした、自分に嘘をつかない真実であった」-。

 というわけで、田中さんの視線は深く、日本的無常観へと届いているのだった。

 比較的長めのエッセーでは「小津安二郎と清水宏の蒲田時代」が面白い。

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