【本ナビ+1】詩人・和合亮一 『市場のことば、本の声』宇田智子著 好ましいデジャビュ味わう - 産経ニュース

【本ナビ+1】詩人・和合亮一 『市場のことば、本の声』宇田智子著 好ましいデジャビュ味わう

「不特定多数の人に親しい手紙を出すような気持ちで詩を書いている」と話す和合亮一さん
『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子著(方丈社・1800円+税)
 本をめぐる話は飽きることがない。そのような思いが伝わるエッセー集と出合った。著者は東京から沖縄の那覇へと移住して、市場通りで古本屋を営み始めた。新刊『市場のことば、本の声』には、それに囲まれた新しい暮らしを選んだ日々が描かれている。
 手にした誰かの時間が、一冊一冊に託されている。その流れの後につながろうとするようにして、店で何かを求める人々の姿がある。ぽつりぽつりと主と語り合っているような気持ちで読み進めていくと、古本というものの持つ面白さがあらためて新鮮に浮かんでくる気がする。那覇の市場通りでさまざまな出会いを重ねて、人と書物を真ん中にしながら暮らしのありかを見つめている宇田の歳月がある。
 沖縄の町や島の景色と人物に親しみや愛しさを覚える。この書き手の静かな語り口とマイペースな呼吸のようなものが、好ましいデジャビュ(既視感)を与えてくれるのかもしれない。「いま住んでいるのでもなくいつか住んでいたのでもない、でも覚えのあるような、親しい人たちが出入りしていた町」という一節があるが、そんな感覚を味わわせてくれる。
 休日は舟に乗り、島へと出かけていって、読書することを楽しみにしているようだ。いざ海辺の民宿の部屋にごろ寝しながら本を開く。数頁(ぺーじ)を読むうちにうたたねしてしまう場面がある。そこへとぜひ出かけてみたくなる。
 「生きていても近づけなかった場所があり、私が死んでもその世界は続く。そう思えたら、少しは安らかだろうか」というフレーズがあり、どきりとする。時や人は移り変わっても、その島も本もずっとあり続ける。読み終えて季節の終わりの海の悠久を思った。(晶文社・1600円+税)
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 ■『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子著
 ヴェネツィアの古書店から全ては始まる。はるかな昔。イタリアの山奥。本の行商人たちの村があった。なぜ山の産物ではなく、本を売り歩くようになったのか。読み進めると背負われた籠の中の書物と人々の謎が行きかうかのようだ。
 「本は、世の中の酸素だ」などのフレーズにひかれた。(方丈社・1800円+税)
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【プロフィル】和合亮一(わごう・りょういち) 昭和43年、福島県生まれ。『AFTER』で中原中也賞。震災詩集『詩の礫』の仏語版で、仏「ニュンク・レビュー・ポエトリー賞」(外国語部門)を受賞。