女王が出すホルモンで母性アップ 働きネズミが子守役に大変身 ハダカデバネズミの謎解明

びっくりサイエンス
ハダカデバネズミ(三浦恭子・熊本大准教授提供)

 アフリカのサバンナで集団生活しているネズミの仲間「ハダカデバネズミ」。巣には女王ネズミがいて、その子を働きネズミが世話している。このような社会は哺乳類では珍しく、仕組みは謎だったが、麻布大などの研究で、女王の糞(ふん)に含まれる女性ホルモンによって働きネズミが母性本能を刺激され、子守役になることが分かってきた。

女性ホルモンがないのに子ネズミを世話

 体長十数センチのハダカデバネズミは、名前の通り体毛がほとんどなく、前歯が口から飛び出ている。大きいと総延長が数キロにも及ぶトンネルに、数十匹の群れで暮らす。暗い地下生活のため視力はほぼない。平均寿命は約30年と、ネズミの仲間としてはかなりの長生き。がんにかかりにくいことも、よく知られている。

 群れの中では、女王1匹と数匹の雄だけが繁殖を行う。他の雌は卵巣が発達しないため子を産まず、植物の根などの餌を集める働きネズミになる。女王は子を産むと授乳するが、子の体を温めたり汚れを取ったりといった他の世話は働きネズミが行う。

 哺乳類の子育て行動は本来、妊娠過程で卵巣から分泌される「エストロゲン」という母性を強める女性ホルモンの影響で始まる。だが、働きネズミは卵巣が未発達でエストロゲンがほとんど生成されない。そのため、どうして働きネズミが子守役を務めるのか、長年の謎となっていた。

女王の産後期に子の鳴き声に激しく反応

 研究チームはまず、女王の妊娠期、産後期、授乳終了後の3つの期間に録音した子ネズミの鳴き声を、スピーカーで働きネズミに聞かせ、どんな反応をするか調べた。その結果、働きネズミは産後期にだけスピーカーに向かって走り出すなど鳴き声に激しく反応、母性の強まりが判明した。

 働きネズミの糞を調べると、妊娠期から産後期に、自分ではほぼ作れないはずのエストロゲンが大量に含まれていた。いったいどこから来たものなのか。

 そこで今度は、ハダカデバネズミが日常的に、他の個体の糞を食べる「糞食」を行っていることに注目した。妊娠期の女王はエストロゲンを大量に分泌し、糞にも大量に含まれる。この時期の糞を働きネズミに9日間食べさせた。すると糞を与え終えた4日後から、鳴き声に激しく反応するようになった。

 さらに、授乳終了後で本来はエストロゲンを含まない女王の糞にエストロゲンを添加し、働きネズミに食べさせたところ、同様に激しく反応。チームは、働きネズミは自分で合成できないエストロゲンを女王の糞から受け取り、母性を強めていると結論づけた。

 働きネズミが鳴き声に反応したのが産後期だけで、妊娠期に反応しなかったのは、糞から摂取したエストロゲンが脳に届き、効果を発揮するには一定の時間が必要で、タイムラグが生じたためとみられる。

厳しい環境で生き抜く手段を子育てに活用

 繁殖は女王、子育ては他の雌や雄という分業はハチやアリも行っており、これらの昆虫はフェロモンという誘因物質を使い実現している。だが、ハダカデバネズミはフェロモンを感知する器官が発達していない。

 ハダカデバネズミが暮らすサバンナは、半乾燥地帯で栄養源に乏しく厳しい環境だ。糞食の習性は、互いに栄養を再吸収するために始まったとみられているが、それだけではなく、糞に含まれるホルモンをフェロモンのように活用し、働きネズミに子育てをさせる合理的なシステムにも役立てていたらしい。

 糞は雄も食べるため、エストロゲンの影響で一部は雌のように乳腺が発達し、子育てにも参加するという。

 ただエストロゲンを生成する女王が、なぜ子育てを働きネズミにまかせ、自分自身で行わないのかは不明。研究論文の筆頭著者である麻布大大学院博士課程の度会(わたらい)晃行(あきゆき)さんは「働きネズミが子育てするメカニズムをまず解明できた。さらに詳しく調べ、女王ネズミが育児放棄する謎も解き明かしたい」と話している。

(科学部 伊藤壽一郎)