ハゲタカシリーズ最新作「シンドローム」 真山仁さん「期せずして集大成」

 
「徹底して面白さを追求しようと改めて思ってます」と話す真山仁さん

 小説家、真山仁(まやま・じん)さん(56)が「ハゲタカ」シリーズの最新作『シンドローム』(講談社)を刊行した。同シリーズは、真山さんがデビュー以来書き継ぎ、累計240万部という大ヒット作。5作目の最新作で描かれるのは、原発事故に見舞われた電力会社の買収劇。おなじみの主人公たちが活躍する一方で、大震災やエネルギー問題と真っ正面から向き合う骨太の群像劇になっている。真山さんは「結果として集大成のような作品になった」と振り返る。

 「ハゲタカは企業買収の世界を面白く描いた経済エンタメなんですが、各章冒頭に日付を入れてきたため、いつのまにか歴史小説のように読まれてもいた。現代経済史、社会史として、時代を映す。東日本大震災も無視するわけにはいかなかった」

 選んだのは、直球勝負。〈2011年3月、磐前(いわさき)県・磐前第一原発で爆発事故発生。投資ファンドのサムライ・キャピタルを率いる鷲津政彦は、株価が暴落した首都電力の買収に乗り出す〉。読めば誰もが7年半前を思い出すはずだ。危機に果敢に立ち向かう、あるいは右往左往して責任を押しつけ合う、絶望、分断、希望…登場人物たちの人間模様はリアルで切実だ。

 週刊誌での連載は2年あまり。上下巻で900ページ超という大長編となったが、「ほとんど迷わずに書いていけた」という。

 原発が危機に陥る『ベイジン』や地熱発電の可能性を追う『マグマ』など、エネルギー問題は過去にも追ってきた。東日本大震災の後は被災地を舞台にした小説『そして、星の輝く夜がくる』『海は見えるか』なども刊行した。政治の小説も書いた。重ねてきた取材や考察が、この一作に集約されたようだ。

 「そうですね。最初から集大成と考えていたわけではないですが、いろいろなものがつながっていって、必然的にこういう物語になったと思います」

 多視点で物語を構成しているが、事故現場に居合わせて無力さを痛感しつつ懸命に職責を果たそうとする若手社員には多くの人が共感するはず。対して〈笑いが止まらんほど儲(もう)かる〉電力会社を買収するチャンスと突っ走る鷲津たちの姿も痛快だ。「鷲津は正義のヒーローではなくてジョーカー。今回は彼を原点に戻らせることができた」

 このシリーズ以外にも多数の連載を抱える。ロッキード事件についての長編ノンフィクションも週刊誌で執筆中。「いま小説を書くのが、すごく楽しい。『シンドローム』を書いたことで迷いがなくなった。徹底して面白さを追求しようと改めて思ってます」(篠原知存)