フェルメールの故郷・デルフトの眺望を訪ねて

アート 美
フェルメールが洗礼を受けた「新教会」の塔から見えるデルフトの風景。街の中心、マルクト広場にある市庁舎で画家は結婚した(黒沢綾子撮影)

 オランダの首都アムステルダムから南西へ、電車で約1時間。歴史ある小都市デルフトは、17世紀の画家、ヨハネス・フェルメールが生涯を過ごした街で知られる。

 街の中心、マルクト広場に、フェルメールが洗礼を受けた「新教会」と、彼が結婚を誓った「市庁舎」が向かい合って建っている。そびえる新教会の塔(高さ108メートル)を息も絶え絶えに上り切ると、オレンジの屋根が連なる美しい街並みが眼下に広がった。「フェルメールの人生は、この広場を中心に半径数百メートル圏内にありました」。歴史ガイドの男性が説明してくれた。

 実際、生家だった宿屋「飛ぶ狐(きつね)亭」跡、結婚して亡くなるまで暮らしたアトリエ兼住居、理事も務めた画家ギルド「聖ルカ組合」の拠点など、フェルメールゆかりの場所は広場周辺に集中している。またフェルメールは結婚を機に、カルヴァン派のプロテスタントからカトリックに改宗。没後埋葬された「旧教会」も歩いて数分と近い。聖ルカ組合があった場所は現在「フェルメールセンター」として、画家の生涯や絵画技法などをひもとくアートセンターになっている。

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 多作で知られる同時代の巨匠、レンブラントとは対照的に、フェルメールは寡作で現存するのは世界でわずか35点前後。その大半は穏やかな日常を描いた風俗画だが、2点だけ風景画をのこしている。いずれも故郷デルフトの風景だ。

 一つはオランダ第3の都市、ハーグのマウリッツハイス美術館にある傑作「デルフトの眺望」。運河越しに、南から望むデルフト市街の景観が描かれている。

 17世紀はオランダの黄金期にあたる。スペインの支配から独立し、共和制による市民社会が発達。東インド会社の設立など国際貿易で、同国には巨万の富が流入した。運河が縦横を走るデルフトも、ビールや毛織物、「デルフト焼」で名高い陶器などを生産し輸出する商都として栄えたという。現在の風景と比べると、運河沿いの建物群はほぼ入れ替わっているが、新教会や旧教会の塔は同じように見える。

 「水平性を強調した構図により、静けさを感じさせます」と美術館スタッフ。絵の右側が明るく照らされており、門の時計は午前7時頃を指す。朝、目覚め始める街。船はぬれているものの、暗雲はまさに消え去ろうとしている。

 もう一つはアムステルダム国立美術館にある「小路(こみち)」。何げない街角の光景だ。古いレンガ造りのこぢんまりした建物と、遊ぶ子供、働く女性たち。建物は現存しないが、フェルメールが描いたとされる場所がある。絵と同じ、掃除をする女性が扉に描かれていたが…。

 フェルメールが画家になって間もない1654年、デルフトの街の3分の1を焼いたとされる火薬庫の爆発事故が起き、多くの命も失われた。画家は、故郷の穏やかな風景、ありふれた日常をいとおしむように描いたのかもしれない。(黒沢綾子)

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【プロフィル】ヨハネス・フェルメール

 Johannes Vermeer 1632年、オランダ・デルフト生まれ。21歳から画家として活動。初期には宗教画にも取り組んだが、主に風俗画を描いた。デルフトの画家ギルドの理事を務め、パトロンにも恵まれるなど生前高い評価を受けていたが、75年、妻と子供たちを残して43歳で死去。没後、次第に忘れられていったが、19世紀半ばに再評価され、1990年代から世界的人気が加速した。

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 ■10月5日開幕

 日本初公開の「ワイングラス」「赤い帽子の娘」を含む、希少なフェルメール作品が8点も集合する“日本最大”の「フェルメール展」(産経新聞社など主催、特別協賛・大和ハウス工業、ノーリツ鋼機 協賛・第一生命グループ、リコー)が10月5日、上野の森美術館(東京都台東区)で開幕する。

 フェルメールの風景画は出品されないが、初期の宗教画、全盛期から晩年にかけての風俗画など、画業の変遷をほぼ網羅。それらを一堂に集めた「フェルメール・ルーム」は、画家本人も目にできなかった“夢の部屋”になる。

 フェルメールと同時代を生きた巨匠たち-ハブリエル・メツーやピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンらの珠玉の絵画も並ぶ。「黄金期」と呼ばれる17世紀のオランダ絵画。その多様な広がり、深化を味わう絶好のチャンスとなる。

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 【ガイド】「フェルメール展」は10月5日から平成31年2月3日まで、東京都台東区上野公園1の2、上野の森美術館。

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