【書評】ノンフィクションライター・井上理津子が読む『すごい葬式 笑いで死を乗り越える』小向敦子著 「自分の葬儀に遅刻した」女優も - 産経ニュース

【書評】ノンフィクションライター・井上理津子が読む『すごい葬式 笑いで死を乗り越える』小向敦子著 「自分の葬儀に遅刻した」女優も

『すごい葬式笑いで死を乗り越える』小向敦子著(朝日新書・760円+税)
 先日、終活について僧侶と葬儀社社員にインタビューした。断捨離や遺言、葬式の準備などに励む人たちに接してきた経験をそれぞれ語ってくれた後、僧侶は「こんなこと言うと身も蓋もないですが」、葬儀社社員は「個人的な思いですが」と前置きし、図らずも同じ意味のことを口にした。「終活は最小にとどめ、趣味を深めて楽しく過ごすのが一番」と。
 読みながら、そのことが思い出されてならなかった。本書は、「老年学」「笑い学」を講じる研究者による、「死を乗り越える笑い」を考察した本だ。
 出てくる出てくる、古今東西の面白いエピソードが。芝居作家、4代目鶴屋南北は最晩年、自分の葬式を喜劇に見立てた台本を書いていて、1830年の葬式で遂行された。「棺の中から頭をたれ、足を縮めて申し上げます」との挨拶あり、流行していた踊りのパロディーあり。亡者が蘇(よみがえ)って「萬歳(まんざい)」を演じ、棺の中から見得(みえ)を切るというオチがついていた。
 2011年に逝去したエリザベス・テイラーの葬儀は、告知時刻の15分遅れで始まった。生前「自分の葬儀にさえ遅刻したと発表を」と自らメディアに語っていたという。映画の撮影に何時間遅れても誰にも文句を言われなかったという逸話をネタに、ユーモアを示したのだ。
 落語家の立川談志が2011年に亡くなったとき、各紙の訃報の見出しは、上から読んでも下から読んでも同じ回文で「談志が死んだ」。やはり本人がリクエストしていたからだ。「立川雲黒斎家元勝手居士(うんこくさいいえもとかってこじ)」という戒名も生前、自分で付けていたという。
 「笑い」と死、葬式は意外と親和性があるかもしれない。登場する人たちの終活は、じつにあっぱれだ。でも、こちらは凡人。特技もないし-。そんな声も聞こえてきそうだが、大丈夫。本書には、死を詠む川柳や、老化現象を自虐ネタにする話なども描かれ、「死をユーモアで飾る」ための助走に入っていくヒント満載。読後、「笑いながら死ぬ」のも夢じゃない、と思えてきた。(朝日新書・760円+税)