【書評】東北大学名誉教授・田中英道が読む『日本人として知っておきたい 世界史の教訓』中西輝政著 市民運動に革命輸出… 冷戦は続く - 産経ニュース

【書評】東北大学名誉教授・田中英道が読む『日本人として知っておきたい 世界史の教訓』中西輝政著 市民運動に革命輸出… 冷戦は続く

『日本人として知っておきたい 世界史の教訓』中西輝政著
 安倍晋三首相が平成27年8月、「戦後70年談話」を出す際、著者が政府の有識者懇談会のメンバーだったことはよく知られている。保守の重鎮として、政府の人選は当を得ている、と多くの識者が評価した。そしてこの「首相談話」も、渡部昇一氏などのように、安倍氏の政治姿勢を支持するものが多かった。
 しかしその著者が、それ以後、安倍氏批判に転じたことは、人々を驚かせた。一体どこにその原因があったのだろうか。そのことが、その後の論考を集めたこの書で明らかにされている。
 一口に言えば、「談話」における戦後の「冷戦」の無視である。戦後の「冷戦」こそが、戦後70年の重要な課題だったはずなのに、相変わらず「あの戦争」における戦争責任ばかりが論じられ、日本の「侵略」や「植民地支配」といった謝罪の話ばかりで、もっと根本的な問題が語られていないというのだ。
 それは「冷戦」が、自由主義陣営と共産主義陣営の角逐で、(ソ連崩壊で、前者の勝利に終わったにせよ)日本では大東亜戦争時も戦後も、その共産主義陣営の脅威に晒(さら)されていたことだ。現在も、中国共産党率いる中国の海洋への拡張主義、北朝鮮の拉致や核実験が批判を受けても一向に路線を変えぬ態度、いずれも共産主義を標榜(ひょうぼう)する国々が、日本の周囲に存在し脅威を与えている。そうした「ネオ共産主義」への政府の対処の仕方が全く不足している。
 ソ連共産党のコミンテルンは解散したものの、中国共産党主導の情報・謀略機関「極東コミンフォルム」の類いが、朝鮮戦争時に日本に暴力革命を仕掛け、安保闘争時に地下工作で扇動し、現在でも市民運動の中に「革命の輸出」を試みている、という。
 著者は、ソ連のスパイ、ゾルゲや尾崎秀実が暗躍した戦時中に、近衛文麿が、その脅威を天皇に上奏(じょうそう)した「近衛上奏文」を高く評価している。
 本書は英米覇権の歴史、明治150年の歴史の論考を加え、中西氏の、まさに現代における「近衛上奏文」であり、多くの方々に読まれることを期待したい。(育鵬社・1500円+税)