【編集者のおすすめ】『政宗の遺言』岩井三四二著 殿様は何に抗い続けたのか - 産経ニュース

【編集者のおすすめ】『政宗の遺言』岩井三四二著 殿様は何に抗い続けたのか

『政宗の遺言』岩井三四二著
 “英雄待望論”は閉塞(へいそく)感に満ちた時代に好まれる。“戦国武将人気ランキング”には、織田信長、真田幸村、上杉謙信と並び伊達政宗も必ず上位に入るが、他の3人と決定的に異なるのが「天寿を全うし畳の上で死んだ」こと。
 「志半ばの死」は英雄像を構成する大事な要素だが、生前どれほど華々しく活躍しても、遺族、遺臣を困窮させるようでは、リーダーとして不適格という評価は否めない。政宗は天下を取れなかった。しかし、秀吉、家康の2人の巨人と知略・謀略の限りを尽くして堂々と渡り合い、見事に生き抜き、家も守った。
 その政宗は70の声を聞き、「最後の暇(いとま)乞い」として寛永13(1636)年4月20日に仙台を出立。5月24日未明に江戸屋敷で息を引き取った。
 この物語は政宗の新参小姓・鉄五郎の目線で描かれる。朴直な彼の目には、陸奥62万石の太守(たいしゅ)が遺(のこ)す言葉を求めて右往左往する家臣、家族、幕臣、将軍、そして謎の侵入者-こうした人々の振る舞いが納得できるものではなかった。江戸への道中で親しくなった古参老武者の口から、主君がいかに苛烈な人生を歩んできたかを聞かされるうちに鉄五郎の考えは深められてゆく。
 「殿様は何に抗(あらが)い続けているのか? その態度のために付け込まれているのではないか? それにしてもなぜ?」
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 エイチアンドアイHI-Story編集部 編集長 熊谷弘之