(3)気付いたら家が太陽光発電所に囲まれていた… 突然の計画に戸惑う住民

太陽光発電は人を幸せにするか
渡部義明さん方(赤い屋根の家)を取り囲む太陽光発電所。2、1、3の順ですでに完成してしまった(渡部義明さん提供、航空写真)

 市内に1500カ所を超す太陽光発電所が設置された山梨県北杜市。人口5万人に満たない北杜市の30人に1カ所の割合にまで太陽光発電所が増えた結果、「平穏な生活を侵害された」として、ある民事訴訟が提起された。

 訴えを起こしたのは、北杜市小渕沢町下笹尾に住む渡部(わたべ)義明さん(71)ら別荘の所有者など5人。渡部さんらは東京都板橋区の太陽光発電業者「Sun Link」を相手取り、工事の差し止めや施設の撤去と損害賠償などを求め、甲府地裁に提訴した。

 渡部さんは11年前に大阪から山に囲まれ自然豊かな北杜市に転居してきた。窓からは南アルプスや秩父連峰の山並みが見える風光明媚な自慢の家。異変は平成25年に起きた。

 裁判資料によると、資材を運び込んだ業者から計画を知らされた渡部さんは、「こんなところに太陽光発電所を作ったら、景観が悪くなるよね」と言った。だが、社長は「悪くならない。むしろ良くなる」と答えたという。

 Sun Linkの社長は、もともと北杜市小淵沢町の出身。社長自身の土地に発電所を作るわけだし、地域に溶けこむためにはこらえなくては…と我慢した渡部さん。太陽光発電所は同年11月に完成し、12月から売電も始まった。

 渡部さんの2階ベランダから見える自慢の眺望は高さ約2・8メートルの「太陽光発電所の壁」によって遮られた。

 渡部さんはその後、愕然とする事実を知る。業者は次々に土地を買い、第2、第3、いやそれ以上の発電所を渡部さん方の周囲に建設する計画なのだという。

 「嫌がらせなのではないか、と感じました。そこで近隣の方とも協力して裁判を起こすことにしたのです」

 平成28年1月に提訴した渡部さんだが、甲府地裁で係争中もSun Linkは建設工事を続行。1日現在、すでに第2、第3の発電所建設工事は完了し、渡部さんの家の前には、太陽光パネルが黒い波のように約500枚並んでいる。

 「本来は冷涼な土地なんですが、太陽光発電所の反射光のため、家の中の温度が上がり、原告になった近隣の方は、クーラーを購入しました。景観、眺望はもちろん、水害も心配です」

 2階のベランダから見える太陽光発電所を見ながら渡部さんは「発電所ができると知っていたら、絶対にここには転居していません」と嘆息する。

 ちなみに当初は太陽光発電所の誘致に積極的だった北杜市も平成26年9月、「太陽光発電設備設置に関する指導要綱」を告示し、太陽光発電所を作る際は、北杜市景観条例に基づく届け出を業者に義務づけた。さらに同28年6月、景観条例を追加改正し、太陽光発電施設の色彩や高さに関する基準を設けた。

 「北杜市太陽光発電を考える市民ネットワーク」共同代表の帆足興次さんは要綱では不十分だと主張する。「指導要綱には強制力、罰則がありません。景観条例も『できるだけ低く』などの文言で、基準があいまい。せめて太陽光発電所の設置を制限する条例だけでも制定しないと、近隣自治体で条例化の動きが進む中、取り残された北杜市にますます太陽光発電所が集まってしまいかねません」と危惧する。

 北杜市まちづくり推進課は、取材に「条例化となると多くの課題があり、行政処分を伴えば、審査請求や訴訟の対象にもなることから慎重に対応したい」と回答。Sun Linkの社長は「弁護士と協議したが、取材には答えないことにした」と述べた。

 訴訟にまでは至っていないが、同様に深刻な地区がある。北杜市長坂町下黒沢。約20年前に売り出された新興住宅地だ。各地から移住してきた人たちが住んでいる。

 この集落を囲むように続々と太陽光発電所が建設された。昨年10月、このうちのひとつの太陽光発電所から流れた土砂が未舗装の道を挟んだ民家2棟の浄化槽に流れ込んだ。

 トイレが使えなくなり、1軒の住人はホテルに移らざるを得なくなったという。もう1軒も庭が膝下まで水に浸かった。

 「向かいの太陽光発電所が盛り土をしてかさ上げしたところ、ちょっと雨が降っただけで、そこから水が流れるようになった」(うち1軒に住む女性)

 「大阪から引っ越してきて、ついの住みかと定めた家が、太陽光発電所ができてから、こんな感じです。太陽光発電所のオーナーは地元でコンビニエンスストアを経営する名士。私のようなよそ者が何を言ったってだめですよ」

 雨に備えて、北杜市の職員が積んだ土嚢(どのう)を見やると、女性は顔を曇らせた。(WEB編集チーム 三枝玄太郎)