文字盤の会話で生の実感 自閉症の作家・東田直樹さん(26)

インクルーシブ 共に生きる

 生まれつきの脳機能障害から、対人関係や会話に困難を伴うこともある「自閉症」。26歳の作家、東田直樹さんは、重度の自閉症だが、声を出しながらオリジナルの文字盤をなぞって会話をし、詩やエッセーを書き、全国で講演も行う。これまで当事者の言葉であまり語られなかった自閉症のことを教えてほしいと、東田さんを訪ねた。(津川綾子)

 インタビュー開始前、東田さんは、手元の文字盤を指でたたき「どうもありがとうございます」「僕は、すぐに失礼なことばかりするのです」と言った。

 その理由は、質問にきちんと答えたい時も、思いとは別に体や口が勝手に動き、話の途中で席を離れたり、頭をよぎった別の言葉(例えば「三時のおやつ!」)が、口から飛び出してしまうことがあるから。東田さんはそんな自分のことを「操縦の難しいロボットの中にいるよう」と例える。

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 幼い頃、胸の中にはいつも出口のない気持ちと言葉が渦巻いていた。ドラマや漫画、周囲で起こっていること、先生や級友の言葉もたいてい理解できた。が、それを伝える言葉が出ないし、すんなり反応できなかった。だから、通常学級に在籍した小学5年頃までを著書で「暗い洞窟の中にいるよう」と書いた。当時の気持ちを問うと、1文字ずつ文字を指し、ゆっくり語り始めた。

 「できることが少なくて、僕は自分がだめな子だと思っていました」

 「僕はいつも自分の脳と折り合うことができなくて、逃げたり、わめいたりしていました」。(立ち上がり、窓の外を眺めてまた席に戻り)「できないことがしたくないことだと思われたり、自分の意思でやっていると思われるのが僕にとっては嫌なことでした。おわり」

 「きれいな言葉では言い表すことができないくらい、僕の心は荒(すさ)んでいました。おわり」

 答えが一区切りつくと、東田さんは文字盤の「おわり」を指し、大声で「おわり」と言う。しかし答えを待つと、気持ちを伝えてくれた。

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 文字盤を使った意思疎通は、東田さんが文字好きだったことから母・美紀さんが考案。小学2年の頃、厚紙に書いたひらがな五十音を指や鉛筆で指す練習から始め、やがて2学年上の姉が持ち帰ったローマ字表を先に東田さんが覚えると、文字盤もローマ字に。

 東田さんは話そうとすると、言葉を見失いやすい特徴がある。ローマ字だとひらがなの約半分の26文字だから、1語目の文字をすばやく選択しやすいという。

 人と話せなかった頃、「ごめんね、や、ありがとうの、ひと言さえ言えたら、どんなに幸せかと、思っていました」。文字盤を使った会話を身につけた今、「(暗い洞窟の中ではなく)陸の上で生きている、という実感があります。文字盤で、自分の意思を伝えられるようになり、この世界にはさまざまな人がいること、自分は多くの人に支えられていることを知りました」と東田さん。

 だから、言葉は大切に紡ぎたい。「僕にとっては、人と会話をする機会は限られています。だからできるだけ、美しい言葉を使うように心がけています」

 まだ人と自由に話すことは難しいけれど、東田さんは詩やエッセーを通じ、大勢の読者と対話している。

 〈晴れの日

 雨がザーサー降ったあと

 おてんと様が

 顔をのぞかせる

 みんなが笑う

 僕も笑う

 ただ それだけ

 それが幸せ〉

 (『ありがとうは僕の耳にこだまする』角川文庫から)

 かつて会話ができなかった東田さんは「友達」だという自然から、勇気や生きる希望を教わったそうだ。今は、東田さんの詩が、私たちを励ましてくれる。

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【用語解説】自閉症

 発達障害の一つで、コミュニケーションや対人関係がうまくいかない、興味や関心が限定的などの特徴がある。知的障害を伴う人もいて、同じ自閉症でも、症状や障害の程度はさまざまだ。幼児期に「他の子に関心がない」「言葉が遅い」などをきっかけに気づく場合がある。