【話の肖像画】小説家・真山仁(5)ロッキード事件が不思議だった 日本は米と共倒れするのでは - 産経ニュース

【話の肖像画】小説家・真山仁(5)ロッキード事件が不思議だった 日本は米と共倒れするのでは

小説家の真山仁さん(大竹直樹撮影)
 〈初めての本格的ノンフィクション連載に選んだテーマは、首相経験者が逮捕された戦後最大の疑獄。田中角栄生誕100年の今年、週刊文春で『ロッキード 角栄はなぜ葬られたのか』を連載中だ〉
 昭和の人物を描かないかというオファーがきて、どうせなら誰もが知っている人で、意外に本当のことを知らない人、田中角栄を選びました。最初は小説で、と考えましたが、ロッキード事件をやるなら小説ではあり得ない。堂々と事実を検証し、「これはこういうことではないのか」と描こうと思いました。「それだけで十分に読み応えがあります」と編集者からも背中を押され、腹を決めました。
 日本でも今年6月から司法取引制度と刑事免責制度が導入されましたが、ロッキード事件では、アメリカで行われたロッキード社のコーチャン元副会長らの嘱託尋問で、日本の検察が起訴しないことを確約し、最高裁も刑事免責を保証しました。それで角栄への贈賄の証言を得て、首相経験者を刺したわけです。昭和51年当時の日本はまだ、刑事免責制度を採用していません。最高裁は結局、後に嘱託尋問調書の証拠能力は否定しましたが、それでも当時14歳だった私はずっと「こんなことがありなのか」と思っていました。
 ノンフィクションにはいろいろな手法がありますが、私が編集者と考えたのは、疑問に感じたことを追及していくというやり方です。推理や妄想もしながら、袋小路も全て見せましょうという姿勢です。
 〈日米両国がタブー視してきた軍事問題の闇に迫る。事件関係者への取材を重ね、核心に近づきつつあった。それは、ロッキード社が売り込みたかったのは民間機ではなくP3C対潜哨戒機であり、日本の純国産次期対潜哨戒機「PX-L」の開発阻止に狙いがあったのではないかということだった〉
 取材を始めて早い段階で、これは民間航空機の贈収賄ではなく、軍事問題の事件であると確信しました。アメリカから降って湧いてきた資料と証言で、事件の捜査は始まったのです。アメリカの裁判所にコーチャン元副会長らの証人尋問を嘱託し、予想された証言拒否に対処するため、検事総長と東京地検検事正が「証言内容が日本の法律に触れても将来とも起訴を猶予する」という不起訴宣明を出す。そんな漫画みたいなことが行われたのです。ある判事に取材したら、「今なら絶対にあり得ない。そもそも裁判にならない」と証言しました。
 アメリカのトランプ大統領が日本に次々と無理難題を言ってくる。ロッキード事件のあった40年前と変わっていません。なぜか。40年前に落とし前をつけなかったからです。日本側も忖度(そんたく)して自己規制しているのです。アメリカは日本にとって大事な国であることは間違いありません。ですが、このままだと共倒れするのではないかと危惧しています。
 驚いたことに、これまで取材をお願いした事件関係者のうち、完全に断られたのは数人だけです。「知っている話しかできないよ」と言いながら、引っ張り出すといろいろな話が出てくる。ずっと口をつぐんできた人も、人生の最終コーナーにさしかかり、語り残さなければいけないと思っているのでしょう。今、ロッキード事件を取り上げることは、とてもリアリティーがあると思っています。(聞き手 大竹直樹)=次回は歌手・俳優のピーターさん